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金沢からの訪問者・カンヅメ最終日

 土曜日にツィッターを見ていたらタイムラインに友人の「椎出啓」氏の「浦佐にいる」というつぶやきがあった。
 浦佐といえば、新幹線の越後湯沢の次の駅である。大雪で高速道路の湯沢六日町間が通行止めになっているというのに、そんなところで何をやっているのだろうと、電話をしてみたら。

「夜勤明けに、ふと、越後湯沢の爆弾おにぎりを食べたくなって、車に乗ってそのまま来てしまいました」

 という返事が返ってきた。
 こっちも、丸六日間、誰とも会わずに部屋に閉じこもっていたので、そろそろ外に出たいと思っていたので、これ幸いと、マンションに来るように伝えた。

 椎出氏の車で、越後湯沢の駅構内にある「雪ん洞」(ゆきんと)というレストランまで行き、この店の名物「爆弾おにぎり」を食べる。
 爆弾おにぎり、というのはかまどで炊いたコシヒカリ一合分を丸ごと海苔で包んでおにぎりにしたもので、そのボリュームたるや、コンビニのおにぎりがその場にひれ伏すような迫力がある。
 写真を撮り忘れたので、食べログのページをリンクしてみた
 
 http://r.tabelog.com/niigata/A1504/A150404/15001249/

 なんというか、コメと海苔と塩だけでも、しみじみ美味い。日本人だよなあ。と感慨に浸れる味である。

 その後、スーパーで買い物をして、温泉に入って、馬鹿話をする。 
 椎出氏は、角川スニーカー文庫から「日常」のノベライズを出しているれっきとした作家であるが、本業は他にある、いわゆる兼業作家である。

 「日常」を書く前は、私の書くものの会話、特に、女の子系の会話をチェックしていただいていた。彼のセンスは、会話にある。
 私と関わるまで、文筆系の仕事は一切やったことがない。趣味の物書きはやっていたが、商業で仕事をするようになったのは、私が「会長の切り札」と「山猫姫」の会話を彼にリライトを頼んだのが始めである。

 7年ほど前に、彼の書く会話が面白いので、それだけを冊子にまとめて「親子丼」という同人誌を作ったことがある。
 この同人誌を、私の仕事場に遊びに来た角川スニーカーの編集さんに渡して「こういう面白いものを書く人がいるのですよ」と教えた。

 その後編集さんの方からのアクションは全くなかったのだが、やはり、会話劇の面白さは編集さんの記憶のなかにあったのだろう、「日常」をノベライズする企画がたちあがったときに、彼に白羽の矢が立ったのである。

 売り込みも営業も何もしていない。私がやったことといえば、彼の書いた同人誌、それも70ページほどの薄い文庫本サイズのそれを、編集さんに渡しただけである。それも7年前に。

 なぜ、そんな昔の同人誌一冊で、椎出氏に「日常」のノベライズのオファーが来たのか、本当の理由はわからない。ただ、私が言えることは、彼の書いた「親子丼」という物語が、編集さんの記憶の中で消えずに残っていたに違いない。ということである。

 面白い作品は、仕事を持ってくるのである。作者の意思や意向に関係なく。
 面白い作品は読んだ人の記憶に残り、そして、広がっていく。
「こんな面白いものがあるよ」と人から人を介して広がっていく。そうなれば、もう作者の手は届かない。
 そして、そうやって広がった作品は、仕事を連れて帰ってくる。
「こういうものを書いて見ませんか?」という電話が掛かってくるのである。【笑

 だから、作家志望者の方々に言いたい。まず作品を書きなさい。ということである。
作家にとって、書いたものがすべてであり、作家本人に意味は無いのだ。
「面白いものを書く」から作家になるのであって、作家になってから面白いものを書くのではない。
 
 作家が「私は作家でございます」と座っていても、誰もお金をくれない。
 作家は面白い作品を書いて、初めてお金がもらえるわけである。
 作家には意味が無い。書いたものだけに意味がある。というのはそういう理屈である。

 「私の頭の中にある面白い物語を書きたい」と思う人は作家になれるかもしれない。
 「書きたい物は思いつかないけど作家になりたい」と思う人は、おそらく無理だろう。
 
 書いたものが、その人を作家にしてくれるのだ。

 

日常の小説 (角川スニーカー文庫)

日常の小説 (角川スニーカー文庫)

  • 作者: 椎出 啓
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/07/30
  • メディア: 文庫



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