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【不定期連載小説講座】「文章で、スケッチをやってみよう」


「ご主人様は山猫姫・9」がアマゾンで予約が始まって二日目。現状でアマゾンランキングの50位前後をウロウロしている。

 ランキングの一ケタには、「とある禁書目録」や「ゴールデンタイム」「れでぃ×ばと!」という電撃文庫のトップランナーが並んでいるが、私はそのはるか後方にいるわけである。

 トップランナーと書いたが、アマゾンの売れ行きランキングはマラソンのようなものかもしれない。書店に並ぶスタート前に、まず予約でスタート順が決まり、売り出しと同時にスタートとなる。

 人気のある本はずっと上位を占めているが、人気が無くなれば、どんどん後落していく。
 逆に、予約の段階では全く無名だった本が、書店に並んだ後で、口コミで一気にゴボウ抜きでトップ集団に躍り出ることもあったりする。

 そういう番狂わせもあるのが出版界の面白いところであるのと同時に「いつか俺も……」と思わせる恐ろしいところでもある【苦笑

 さて今回の小説講座は、情景を描いて読者をそこに連れて行くことができるようになるための訓練方法「文章で行うスケッチ」である。

 ちゃんとキャラクターの会話を書いているのに、友人に読ませると「これ、どこで誰が話してるの?」みたいなことを言われてしまう。
 もしくは「会話だけしか書けない」と言う人が結構いる。

 そういう人は、脳内にその場面が浮かんでいないのだ。
 映画やドラマの映像で言えば、キャラクターの顔のアップが延々と続いているだけで、動きや構図を全く考えていないのと同じである。

 キャラの顔のアップだけでも、その表情を、生き生きと描写できればそれで場をもたせることはできるが、そんな技量を最初から持っている天才はほんの一握りである。
 平凡な人間が小説を書けるようになるには、訓練を積むしかない。

 まず、適当な白い紙を用意して欲しい。線が引ければ文字が書ければ何でもいい。その紙に大きく四角を書いてから、そこに、脳内の記憶をフルに思い起こして、行きつけのコンビニの図面を書いて欲しい。

 入り口がここで、ここに雑誌が並んでて、ここにカウンターがあって、ここに弁当やおにぎりがあって、この棚にパンがあって、その反対側にお菓子が並んでて……と、想い出しながら図面に書き入れていくのだ。

 図面が書き終わった頃には、脳内に、しっかりとコンビニの店内が出来上がっているはずである。

 そうしたら、その紙を持って、そのコンビニに行って欲しい。
 自分の脳内の記憶と、実際のコンビニとの違いを見比べるのである。
 結構思い違いをしているはずである。

 さて、修正を終えたら、家に戻り、目の前の図面と記憶を頼りに、シチュエーションを思い浮かべて欲しい。

 主人公が、コンビニでパンを買おうか弁当を買おうかと迷っているところに、後輩の女の子がやってきて、声をかける。と言うシチュエーションだ。

 まず、主人公の立っている位置を決めよう。決めたらその位置で、何を見ているかを書き出そう。箇条書きで構わない。
 次に、店に入ってきた後輩の動きを決めよう。どのあたりで、主人公を見つけ、どこで声をかけてくるのか、それを。

 この一連のイメージを絵にしたもの、それがアニメや映画の絵コンテになる。
 作者は、これを脳内に作ってその順番で、文章に起こしていかねばならない。

 書くべきことには、順序がある。
 
 この順番を考えずに書くと、カメラはあっちこっちをてんでばらばらに映した映像を、読者に見せることになる。
 
 後輩の女の子の外見を描写して、店の中の混み具合を書いて、また後輩の女の子の表情を書いて、いきなり回想シーンに入って……と言う具合である。

 脳内にちゃんと情景と、空間を作らずに書くと、いきなりドアが現れたり、突然階段を転げ落ちたり、右にいたはずの相手が左側にいたり、現代日本が舞台で国産車を運転していて助手席に仲間が乗っているはずなのに、前の車を右から追い越しざまに、ドア越しに運転手の腕をピストルで撃ち抜いたりすることになる。

 この「文章のスケッチ」をすることの利点は、そういう空間の認識が出来る回路を脳内につくることである。
 脳内に思い浮かべる情景をしっかりと、明確にさせることで、会話だけで、他に何も無い顔のアップだけのコマが続くようなマンガにならないで済むし、何よりも、この部分が『色々あって』に繋がっていくのだ。

 そして、描写のときに、コンビニの店内にあるものを、的確に描写することで、読者にその情景を思い起こさせることができる。
 読者の記憶の中にある情景と、あなたが書いた情景が一致したとき、読者葉あなたの書いた文章に「リアリズム」を感じるだろう。
 
「店員さんが肉まんのケースを開けると、ふわっと湯気が立ち昇り、レジの上に飾ってあった、ホワイトデーのポスターが、かさかさと揺れた」

この二行で、読者の脳内に、肉まんを暖めているケースから立ち昇る湯気を思い浮かべてもらうのと同時に、今が二月の終わりから三月の初旬であることを読者に説明できる。

いちいち、セリフなどで説明しなくとも、情景描写で読者をそこに連れて行くのと同時に今の季節がいつなのかを説明できるわけである。

 この積み重ねが、なにを産むかと言うと、説得力である。

 ありっこない、あるわけない、荒唐無稽な話を書くのだから、説得なんか無駄じゃないか、とお考えかもしれない。
 だが、ありっこない、あるわけない話だけでは、誰も読んではくれない。
 ありっこない、あるわけない、でも、あったらいいな。と思わせるから読者は読んでくれるのだ。

 そして、小説は、その、ありっこない、あるわけない話を読者に「でも、あるかもしれない」と思わせることができるのだ。

「ありっこない、あるわけない、でも、あるかもしれない話」
 私が目指している理想の物語は、読者の方にそう思ってもらえる物語である。

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