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フランスの飛行機マンガ「雲の彼方」と「ル・グラン・デューク」について。

フランスのマンガ、いわゆる「ヴァンド・デシネ」の戦争マンガ「雲の彼方」と「ル・グラン・デューク」が日本語訳されて、イカロス出版から市場に出ている。
 なんというか、これは、すごいレベルのマンガである。
 物語は、しっかりしているし、考証もガチだし、ドラマはあるし、正統派の戦争マンガである。
 フルカラーの誌面を見ていると、これはまさに「映画」である。
 構図はカメラワークであり、表現はエフェクトである。


雲の彼方 オドゥラ・デ・ニュアージュ

雲の彼方 オドゥラ・デ・ニュアージュ

  • 作者: レジ・オーティエール
  • 出版社/メーカー: イカロス出版
  • 発売日: 2012/03/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




「雲の彼方」は、第二次世界大戦前の、いわゆる「大戦間」の郵便機の遭難エピソードから始まって、アメリカ人のパイロットとフランス人のパイロットの愛憎を織り交ぜて、第二次世界大戦になだれ込んでいく。
 ここに描かれたスピットファイヤとムスタングの美しさはどうだろう。
 ため息しか出てこない。

ル・グラン・デューク

ル・グラン・デューク

  • 作者: ヤン
  • 出版社/メーカー: イカロス出版
  • 発売日: 2011/09/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




「ル・グラン・デューク」は、東部戦線の夜間戦闘機のドイツ軍パイロットと、いわゆる「魔女飛行隊」と呼ばれた、ソビエト軍の夜間爆撃機【布張り複葉機】の女性パイロットの物語である。
 主人公は、途中で「ウーフー」と呼ばれるドイツ軍の傑作夜間戦闘機に搭乗するのだが、これほどまでに美しく描かれたウーフーを見たことは無い。

 ドイツ軍が機上レーダーを実用化させるまで、夜間戦闘機は、目視で目標を発見し攻撃しなくてはならなかった。
 その頃、西部戦線ではイギリス軍が機上レーダーを実用化して、高速戦闘機モスキートに搭載して、夜間爆撃を行うイギリス軍のアブロランカスター爆撃機の護衛を行っていた。

 夜間戦闘機同士の戦いは、まさしく暗闇で手探りで戦うようなものであり、レーダーを持たないドイツ軍側の夜間戦闘機は、イギリス軍のモスキートに不利な戦いを強いられていた。

 後方から忍び寄ったモスキートに闇の中から機銃を打ち込まれて撃墜される者が続出した。
 だが、その最初の一撃をかわす事ができれば、生存率は上る。
 
 レーダーを持たぬドイツ軍パイロットは、かすかな光や、動きを感じ取って、モスキートの一撃を避けようとした。

 その戦いは、どれほど息詰まるものだったのだろう。このシチュエーションを書きたくて仕方が無い。

 話が脱線してしまった。私の悪い癖である。

 話を元に戻すと、今の日本には、これと同じようなマンガを支える基盤があるだろうか? と言う話になる。

 週刊誌で連載されたマンガが単行本になる以外の、いわゆる「書き下ろし」マンガはほとんど無いし、マンガといえば単色刷りが当たり前で、オールカラーなんて贅沢なものは、簡単には出せない。
 この二冊が、いずれも3000円近い値段になっているのも無理は無い。

 次から次に追い立てられるようにマンガを量産し、雑誌に掲載して、それをまとめて単行本にする。と言う日本のマンガ出版システムでは、とても手が出せない。これほどの冒険を犯す出版社は日本には無いだろう。

 これと同じレベルのマンガを描ける人材が、もし、今の日本に存在したとしても、その人は、今の日本では食べていけない。
 日本には、そういう人材を生かすシステムが無い。

 でも、本当にそうなのだろうか? 
「買って読んで、ブックオフに売るマンガ」ではない「買って読んで、取っておくマンガ」は、成立しないのだろうか?

 もし、そうだとしたら、日本の商業マンガ文化と言うのは、実に単調なものだということになる。

 ビジネスとして、成立させるための効率性の追求。コストのカット。最小限の投下資本で最大限の利益を出すシステムの追求。
 それはビジネスとしては当然の行為であるし、それをやらねば、利益が出ないのも事実である。
 となれば、こういうマンガを世に出す手段として同人誌を選択するのも一つの方法である。

 コンテンツが画一化していくと、それに納まらないコンテンツが、スピンオフしていく。
 そのまま消えるものもあれば、しっかりと根付くこともある。
 
 人々の趣味嗜好が多様化しつつある現代において、ビジネスの常識である効率化は、コンテンツ産業にとっては衰退化に向う道だと私は思う。

 私は、損をしてまでこういうマンガを出せと言っているわけではない。
 どかんと売れること。だけを目標にして、それ以外のものは切り捨てる。と言うやり方に徹するのではなく、ちょっとだけ余裕を持たせてもいいのではないか? と言っているだけである。
 
 これは、損をしない程度に売れる。と言うコンテンツにも愛の手を。という、実に切実な訴えでもある【苦笑

 
   

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